今から考えると笑えない話
26才くらいの頃だったでしょうか。
夜の7時頃だったと思います。
玄関に誰かが来たようでした。聞こえてくる声は母親が10年来付き合っている友達だと分かりました。その昔はお隣同士だったんですが、我が家が引越しして少し離れたところに住むようになりましたが付き合いは続いていました。
なにやら玄関先でもめている様子。あんなに仲が良いのにどうしたんだろうと思っていると、母親が私の部屋にやってきました。
母「○○、××さんが今来てるんだけどさ」
私「そうみたいね」
母「困っちゃてさあ」
私「何が?」
母「××さんのとこのミッ子ちゃん知ってる?」
私「娘二人いたけど、下の子?」
母「そう。下の子。この春に高校卒業したんだってさ」
私「それで?」
母「××さんが言うにはね。ミッ子ちゃんがおまえのことが好きで嫁に貰ってくれないかって連れてきてるんだよ。貰ってくれるなら二人が住む家を新築するって言ってるのよ。もちろん、あんたが一人っ子だって知ってるから私らも同居して構わないそうだよ」
私「・・・」
××さんの旦那さんは工務店を経営していた。実は、我が家も建築関係の事業をしていて、隣同士の頃は親父同士が良く一緒に飲んでいた。
言葉を失う私。犬猫をくれてやる訳じゃないんだから、少しは根回しとかあるだろう。
確かに、××さんの家には我が家の愛犬が産んだ子犬を差し上げている。
しかし、いきなりそう言う要件で押しかけるなんて前代未聞じゃないだろうか。
正直、その頃は私には付き合ってる女性がいた。そもそも、そのミッ子ちゃんと言う女の子は私の好みではなかったし、見かけたのは数度であり、一度として会話を交わしたこともない。
アプローチの仕方がおかしい。いきなり嫁に貰ってくれって・・・。
それも高校出たての18才の少女をだ。何を考えているんだ。
もしも、もしもだ、仮にその子が香坂みゆきに似ていたら、一つ返事で承諾していたかも知れないと言う事実は秘密である。(笑)
まずは、こう言うことなんでと電話でもするべきではないだろうか。
向こうの母親もおかしいと言えばおかしい。
私「急に言われても困るよねぇ。それにまだ結婚なんて考えてないから」
母「そうだよねぇ。うん、分かった」
そう言うと母はフンとひとつ鼻息をしてから部屋から出て行った。
しばらくすると玄関の閉まる音がして、二人の帰っていくもの悲しい足音が聞こえた。
門前払い・・・。
私の母親はたまに非常識な対応をすることがあったが、これにはいささか驚いた。
普通なら居間にでも通して、お茶でも飲みながらゆっくり話すような内容だと思うのだが、友人親子を玄関先に立たせて、娘さんの人生に関わる話を新聞の勧誘を断るように追い返してしまったのだ。
もちろん、母親も突然の話で動揺していたのだろうが、向こうの気持ちを考えるとあまりにも酷い話だと思ったものだ。
もちろん、その後××家との付き合いは途切れたらしい。
それにしても、あまり聞いたことがない話だろうが、実際にあった話なのです。
その時の話を後になって母親に言ったら「確かに、ひどい話だわ」と豪快に笑ったのを想い出す。
それにしても、娘さんの気持ちを酌んで行動に出た××さんのお母さんの気持ちを考えるとなんとも切ないですよねぇ。
昭和もあと4年を残すところとなった初夏の話でありました。