海の怖さを思い出す
ネットで色々な動画を見ていて荒天の海で悪戦苦闘するプレジャーボートの映像が目にとまりました。
そう言えば、だいぶ前に怖い思いをしたなあと記憶が蘇りました。
私が船舶免許を取得したのが8年前の2013年です。
免許を取ったら乗りたくて仕方が無いのが人情ですよね。
早速ヤマハのシースタイルと言うレンタルボートの会員になりました。しかし、人気のマリーナだけあってなかなか予約が取れません。ならばと別のレンタルボートを探すと横浜の新子安の辺りに小規模なマリーナとレンタルボートのショップを発見、すぐに会員登録をして早速予約を入れました。
予約したのはスズキのUF25と言うフィッシングボートです。
25フィートで定員は7名です。(仕様的には10名乗れます)
いつも釣りに行く仲間二人と女房と下の娘の6名で朝の9時にマリーナを出発。
横浜港の湾奥(瑞穂埠頭裏)を出港しました。
当日は天気は快晴、風も無く波も静かでした。
ワイワイ言いながらボートは八景島沖へ向かいます。
釣りを始めたのはいいんですが、シロギスが数匹釣れただけでなかなか数が出ません。
その後移動して横須賀の猿島付近(地図のA)まで行ってみたものの釣れない。
うーん。そこで浅はかにも第二海堡まで行ってみようと思ってしまったのです。
これが最悪の選択になるとは思いもせずに・・・。
横須賀から第二海堡に行くには日本でも有数の船舶が多い浦賀水道航路を横切らないといけません。航路は大型船やタンカーが引っ切りなしに通過していきます。
航路を突っ切る時は航路に直角に一気に渡れと言うルールがあります。周囲を観察して隙をついて全速力で横切りました。(恐ろしやぁ)
車の免許を取ったばかりの初心者がいきなり東名高速に合流する感じですかねぇ。
お目当ての第二海堡までなんとか辿り着くも、当時は島の改修工事のため作業船がたくさんいたために近寄れません。
海堡周りではメバルやカサゴ、クロダイ、スズキなどが釣れるはずでしたが、これを断念してお隣の第一海堡(地図のB)へ移動。
第一海堡はVIPの砂浜と呼ばれる人工島で、ここにはクルーザーで来たお金持ちがバーベキューを楽しむ場所として知られて居ます。場所は千葉県の富津の先端から1キロほどにあります。ビーチとかもあって、まさにリゾートの雰囲気です。
結局、ここでもたいした魚は釣れませんでした。
買ってきた昼食を食べながらまったりしていると、少し風が出てきました。
見ると、何隻か居たクルーザーが引き上げ準備を始めています。どれも、40フィートクラスの立派なボートです。
ふと見ると波頭に白い物が見え始めています。(我々はウサギが跳ぶなんて言います)
なんかいやな予感しかしない。
「引き上げるよ」と宣言するとアンカーを上げて船を横浜に向けました。
気かつけば、さほどの天気とはうって変わって風が強くなり、波も高くなっています。
最初の頃は普通の波で、背に乗って走れましたが、次第に波の向きが直接横浜港を目指すと横から食らうようになります。
結果、北西に行きたいのに北に向かうしかありません。
波しぶきがフロントガラスを濡らして視界も悪い。
しかし、友人の一人と下の娘は船の前にいます。波をかぶるんじゃないかと思いつつも二人はそこに腰掛けたままです。???
そして再び中ノ瀬航路を横切ることになります。
この辺り、停泊している大型船と走っている大型船が混在しています。視界が悪いため見分けが付かないし、こっちに向かっているのか遠ざかるのかも良く分かりません。
キャビン内にいる友人と女房に船の観察を依頼しつつ私は波と悪戦苦闘します。
そのうち海が激変します。
東京湾名物の三角波が発生していたのです。
三角波と言うのは潮流や風などの影響で出来る合成波のことを言います。
海がちょうどこんな感じになります。
突然に海が盛り上がるんです。この日は高いところで2メートルはありました。
これは葛飾北斎の神奈川沖と言う絵ですが、私にはこんな風に感じられました。
怖いのは波の頂点に乗ったときに船が横滑りを始めます。この横滑りに対して外側に舵を切らないと船が大きく傾きます。内側に巻き込まれるように切るとアウトです。
これはブローチングと言う物です。この時、舵が効かなくなりますし、船外機船の場合はスクリューが海面から上に出たりするので進むことも困難になります。
ブローチングによる転覆事故は多く、海上保安庁も荒天時のブローチングについて注意を呼びかけています。
船縁が海面すれすれまで傾いた時には転覆の危険を何度も感じました。
もちろん、全員ライフジャケットを着けていますが、こんな海に投げ出されたらと思うと冷や汗が出ました。
右手でスロットルを調整し、波に乗ったら加速、波を下る時は減速し、波の横に乗ったら外側にハンドルを切り、また戻す。できれば波と波の隙間を抜けるよう走ります。
一番怖いのは追い波になって船がサーフィン状態になることです。そこで少しでも舵を横に切ると船が波に対して真横を向き転覆します。
波の底に入ると周囲が全く見えません。三角波は進まずにそこで上下する感じですね。
私は操船で必死なので、友達と女房が右前方に船とか左から船と報告してくれます。
とにかく、波と風のせいで1~2ノットしか速度が出せません。進まない~。(>_<)
喉がカラカラなのに水を飲む余裕すらありません。
まさに死闘でした。
静かな海なら第一海堡から横浜のマリーナまで1時間程度ですが、この日は二時間以上掛かりました。
結局、ボートはベイブリッジをくぐれずに川崎の東扇島まで走らざるを得ませんでした。角度が取れな~いっ。
扇島の隙間を抜けて京浜運河に入った時には大きなため息をつき、ボトルの水を一気飲みしました。めちゃ疲れたわ。
驚いたことに下の娘はずっと寝ていたそうです。図太いやつだぁ。
帰港してマリーナのスタッフに第一海堡から帰ってきたと言うと目を丸くしてました。
「良く無事に戻れましたね。私ならこんな天候では絶対に行かない。電話をくれればこちらに戻らず富津のマリーナに避難するように指示されたはず」
と言ってました。(^_^)
免許を取った初航海で地獄を見ました。
最近のボートは構造上は復元性が高くてなかなか転覆はしないそうですが、しない訳ではありません。
あれ以来、波風が強いと絶対に横浜の湾内から外には出ないことにしています。
一つ間違えれば友人二人と女房と娘を失うところでした。
海は怖いですよ。
ほんと