前略おふくろ様
このドラマを覚えてますか?
日本テレビ系列の金曜劇場で放送されたテレビドラマで第1シリーズは1975年10月17日から1976年4月9日まで、第2シリーズは1976年10月15日から1977年4月1日まで放送されました。
出演者もずいぶんと亡くなれている古いドラマです。(拝借画像)
最近亡くなられた主演の萩原健一さんを始め坂口良子さん、川谷拓三さんなどはこの映像の中でしか見られなくなりました。
最近、このドラマを大人買いしたDVDで見ています。このドラマの前に萩原健一さんが水谷豊さんと出演した「傷だらけの天使」も買ってしまいました。(^^)
「前略おふくろ様」は深川の料亭「分田上(わけたがみ)」を舞台に見習いの板前である萩原健一演ずる方島三郎を中心にドラマを展開していきます。
仕事にも慣れた三郎の元に突然郷里の山形から家出してきた本家の娘こと、桃井かおり演ずる岡野海が現れて色々な騒動を引き起こしていきます。
さて、ドラマの背景についてはこのくらいにして本題に入ります。
第16話で家出して2年の間音信不通だった海から年賀状を貰って、海の父を演ずる大滝秀治が上京してきます。三郎は怒ると怖いことで有名な海の父親に居酒屋に呼び出されて震え上がります。三郎は数日前に海と口論した結果、海が突然にアパートを引き払って行方不明になっていることを言い出せないでいると、アパートに海の弟のかつお(火野正平)が尋ねてきます。
色々と話しているうち、かつおがぽつりぽつりと話始めます。
実は海の父親は家出したのだと。
原因はやはり海のことで、父は母と口論となりカッとなった父が母を殴ったのだそうです。見かねたかつおが父親を制止しようとした際に柔道の大外刈りで倒して腕を逆手に取って押さえつけたのだそうです。
あんなに怖い父親が意外に弱かったことにかつおはショックを受けました。絶対に勝てないと思っていた父親を簡単にねじ伏せてしまった。すぐに手を放してかつおは謝りましたが、父親はねじ伏せられた姿勢のままで目に涙を浮かべていたそうです。父親もまたショックを受けたことは言うまでもありません。
そして翌日、父親は家族に黙って家を出てしまったと言うのです。
このシーンを見ていて私は思わず目がウルウルしてしまいました。
何故かと言うと、私にも同じ事があったからです。
当時、私は仕事が忙しくて帰宅はいつも深夜でした。妻も同業種で割と遅くて家族で一緒に食事をする機会は殆どありませんでした。たまに休みで家にいても私は書斎に籠もりきり、女房も娘も自室から殆ど出て来ませんでした。同居していた私の両親は常に二人で食事をして、リビングでテレビを見ている生活でした。私は酒を飲まないので父はいつも母を相手に黙って晩酌をしていました。
父はこの家族には団欒と言う物がはないと常に不満を抱いていました。それがある日爆発します。夜半、酒に酔った父がハンマーを持って私の書斎に乱入してきたのです。
私は咄嗟にドラマと同じように大外刈りで父を倒し、うつ伏せに倒れた父の腕を背中にねじ上げて押さえ込みの姿勢を取りました。(私・・・柔道は初段です)
必死に抗う父でしたガッチリと寝技が決まって身動き一つ取れません。そのうちに騒ぎを聞きつけた家族が集まってきます。みんな驚いた様子で異様な光景を見ていました。もう暴れないと約束した父を解放した私ですが、その後やったことに対して後悔したのは言うまでもありません。
その昔、土建屋の親方として100人からの荒くれを従えた腕っ節の強い男だった父ですが70歳の体力では40そこそこの息子に敵わなかった訳です。
そんな荒くれの父ですが、一度として私に手を上げたことがありませんでした。
横浜に家を買い、川崎の借家住まいだった両親を呼び寄せた私ですが、むしろ両親に孤独感を与えていたのではないかと思います。父は一緒に住めば孫達と食事したり楽しい時間を過ごせると思っていたのでしょう。
当時は仕事で帰宅するのが遅い私、無口な嫁、引き籠もり勝ちの娘と言った家庭環境は両親には居心地が悪かったのかも知れません。
第16話はそんな苦い思い出を蘇らせるエピソードでした。
あのとき、息子に押さえつけられた父は何を思っていたのでしょう。76歳で食道癌で亡くなった父ですが、闘病生活中に色々と話す機会がありましたが、この事件に関しては一度も話したことはありませんでした。
もし、私がこの世を去ってあの世で父に再会する事があれば、最初にあのときの事を詫びたいと思います。