常連客
57歳でリタイアした私だがフリーのSEとして色々な企業で仕事をしていた。
仕事柄と言うか会社を出る頃にはいつも深夜であり、帰りにどこかへ寄っていくと言う習慣はとうとう身につかなかった。
それにサラリーマンを5年程経験した後にすぐに独立してしまった私は殆ど自動車で通勤していたせいかアルコールとは無縁となった。
だから馴染みの飲み屋と言うのもなかった。
唯一あるとすれば飲み屋ではないが、大塚と言う駅の近くで仕事をしていた頃に毎朝のようにドトールコーヒーでブレンドのLを買って行く日が続いた。
そしてある日から店長と思われる初老の男性が私の顔を見ると「ブレンドのLですね」と聞いてくれるようになり、いつしか私の顔を見ると当然のようにブレンドコーヒーの持ち帰りを用意してくれるようになったのだ。
ある日、女性店員が「何になさいますか」と尋ねてきたが、後ろでホットドッグを作っていた店長が「僕がやるから」と言って女性を下がらせたことがあった。
私は思わずニッコリと笑った。
なんだかとても嬉しかった。
以降、店の外に私の姿を認めると店長はもう準備を始めるのだった。つまり、私はそのドトールの前を素通り出来なくなった訳だ。(^^)
とくに店長と会話を交わす訳でもないのだが、なんだか心が通い合っているようで気に入っていた。
馴染みの飲み屋に通いつめるオヤジ達はこう言う感じが好きなんだろうなあと勝手に思ったのだった。